感想文01 AIビジネスの法律実務
今年一冊目の感想文。
今年はしっかり読んでいきたい…
『AIビジネスの法律実務』 人工知能法務研究会 編 日本加除出版
AIとビジネスの法的問題について、広く簡単にまとめた本。入門用に。
AI入門
AIの進化には波があり、第一次(1950年代後半、探索と推論)、第二次(1980年代、知識表現)に続き今来てるのが第三次(2000年代〜、機械学習)の人工知能ブーム。
背景にあるのは
- ハードウェアの進化により演算能力が向上したこと
- 人間が生成するデータ量が爆発的に増加し、AIが学習に膨大・多様なデータを入手できるようになったこと
- 生物の脳構造からヒントを得てディープラーニング(深層学習)というアルゴリズムが考案されたこと
ディープラーニングとは、パターン認識の基準となる「特徴量」を自ら獲得できるようになった、機械学習の進化版。従来は人間が特徴量を設計し、その設計によって機械の良しあしが分かれていた。
AIにはレベルがある。*1
- 条件に即してごく単純な制御を行うプログラムを搭載しているだけの家電製品
- 古典的人工知能__対応ないし振る舞いのパターンが多彩になるもの
- 検索エンジンに内蔵されていたり、ビッグデータをもとに対応パターンを自動的に判断したりするもの
- 機械学習をする際のデータを表すために使われる特徴量自体を学習するもの
AIの長所はイメージ通りだが、短所はその裏返しという感じ*2大量のデータを学習することが前提となっているので、過去の集積がないと動けない(つまり新領域ではお題を特定しないとダメ、環境変化に敏感に反応しない)とか、気持ちや常識といったデータ外の規範から外れた判断をし得る。
AIの問題点はどの分野でも類似。
- AI生成物の行為に対する責任_AIが他社の権利を侵害した場合の責任の帰属主体
- AIによる生成物の帰属_著作権等の発生の有無や帰属
- AIの保護についての法律の不備_ソフトウェアプログラムやアルゴリズムの法的保護
- AIに与える学習用データ_複製権(著作権法21条)の侵害の有無
- AIと業法_特定の資格を持つ者のみができた分野をAIが行えるか
AIの労働市場に対する影響
解雇
解雇の「客観的に合理的な理由」(労契法16条)の典型例*3のうち、AIに業務を奪われた労働者の解雇は整理解雇にあたる。
整理解雇の4要素*4のうち、人員削減の必要性について、裁判例*5は、経営が赤字なら経営者判断を尊重している。黒字の場合は、必要性はあるとしても、人員削減は配点・出向や退職金上積みの希望退職募集などで実現すべき(つまり2つ目の要素である解雇回避努力義務を厳格に判断するということか)とされる*6いずれにせよ必要性はゆるく認められるぽい。
しかし、AIに単純な労働を代替された企業内において、解雇回避手段の典型である配転は難しくなる。また、社内教育ではAIの能力に追いつかない。
最初にAIを導入する企業はグループ企業だから未だ単純労働が残っている可能性はなくもないが、時間の問題そう。そうだとすると、解雇回避努力義務を厳格に判断するだけでは、解雇の妥当性判断はできないのでは?別の要素の考慮が必要?
また、使用者が解雇を容易にするため、契約締結時点で職務限定契約にしておき、他の職種への配転策を潰しておくことが考えられる。こういうやり方はAI導入されていなくてもありそうだけど、AIにより単純労働を代替する展望を持った企業が増えれば、長期雇用の保障を図る日本型雇用慣行が変化するかも。この場合、より解雇を容易に認める流れに変化するのも一つの展開ではあるが、労働市場改革を先にやらないと失業者として滞留してしまう*7。
AIやロボットの普及に伴い、労働市場の二極化(すなわち事務労働者・会社員等の中間所得者層が減少し、クリエイティブ・知的労働を行う高所得労働者と、肉体労働を行う低所得労働者が残る)が有力に指摘されているとしているが、むしろAIより低廉な省力化手段が先に導入されるはずなので、低所得労働者から失業するのではとも思う。ちゃんと参考文献を読みたい*8。
配転
AIによる配転判断*9が権利濫用(労契法3条5項)になるか。
権利濫用の3要件*10のうち、「他の動機目的」はAIに判断が難しく、「業務上の必要性」「甘受できない不利益性」の要件が主として判断される。
不利益性についてはほんとか?とも思うが、東亜ペイント事件でも結構無慈悲なので仕方ないのか…解雇の容易性が変われば影響を受けそう。
そういえば転勤ってまだ結構ある気がするけど、今後減らないんだろうか。
その他
AIによる労働者の監視、メンタルヘルス管理、少なくとも労働法的にはそんなに問題なさそう。AI上司に業務命令権があるか、労働者に遵守義務があるか。
その他メモ
- 米の刑事裁判では、AIを用いたソフトウェアで作成された証拠が提出され、採用された*11。再犯可能性を数値化したもの。米では広く採用されているが、人種によって再犯予想率に差が出たり、性別により使用する基準が異なったりすることは、法の下の平等との観点で問題。
→最初の人間のインプット傾向によって、その後のAIの成長スキームが固定されたりしないのかな。あと、裁判でAI信頼して使ってるんだ、という。
- AIの帰属主体を特許のように制限することはできなくても、作成者に帰責することにどのような問題が発生するのか。確かに作成者の予想を超えて成長したとしても、それにより恩恵を受けている以上、それが他人の権利を侵害した場合は責任を負うべきでは?と思ってしまう。
- EUは2017年1月27日、erectric personとしての権利主体性を与えることを含め、高度なAIやロボットに関する法的枠組みの定立を提案するrecommendationを可決。背景にあるのは、AIやロボットによって生じた結果について人間に奇跡できないという問題意識。
長くなったので反省、1000字程度でさらっと書いていきたい。
*1:松尾豊『人工知能は人間を超えるか〜ディープラーニングの先にあるもの』KADOKAWA 2015 p144-
*2:樋口晋也、城塚音也『決定版AI人工知能』東洋経済新報社 2017。
*3:①労働能力・適格性の欠如・喪失、②規律違反行為、③整理解雇、④ユシ協定に基づく組合の解雇要求のある場合
*4:①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③被解雇者選定の妥当性、④手続きの妥当性
*5:例:東洋酵素事件 東京高判S54.10.29 百選73
*6:菅野『労働法[第10版]』p568。
*7:本書では失業者の保護策として
*8:井上智洋『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』文春新書 2016 p.33-、大内伸哉『AI時代の働き方と法 2035年の労働法を考える』有斐閣 2017 p.19
*9:包括的合意説にしろ、契約説にしろ、就業規則にAIによる判断を含む旨の記載は必要
*11: In Wisconsin, a Backlash Against Using Data to Foretell Defendants’ Futures - The New York Times